”84年組”アイドルの完成形
年末のシーズンになると色々なところで出店が見受けられますね。先日、JR新橋駅のSL広場で古本のお店が多数出店していたので何冊か購入しました。
そのとき購入した『ラブ・ソングの記号学』(藤田宣永著 角川文庫)の中で気になったページを取り上げたいと思います。
「これはかなり売れるんじゃないかと思った」
1985年(昭和60)に出版された本で、長らく仕事で日本を不在にしていた著者が日本の歌謡曲(このころはまだJ‐POPという言葉すらない)を題材に、当時の流行や比較文化を交えながら、歌詞やアレンジに垣間見えてくる流行歌の傾向、作者や歌い手の心情を掘り下げてみる… といった内容。
その中で、出版された前の年(1984年)にデビューしたアイドルについて触れています。冒頭で何人かの名前を挙げているのですが、当時4歳だった僕が知っているのは菊池桃子と岡田有希子くらい。栄枯盛衰が激しい世界なので、いわゆる当たり年ではなかったのかもしれませんが、名前を挙げた中で著者が"最も注目している"と紹介していたのが「吉川晃司」でした。
「長身で、動きがよく、決してハンサムではないけれど、甘い感じと野性味がほどよく混じっていて、これはかなり売れるんじゃないかと思った」と述べています。
同年のデビューではないですが、近藤真彦や田原俊彦との比較についても触れており、彼らの代表曲が、自分の気持ち(恋心)をストレートに吐露する歌詞で構成されているのに対し、吉川のデビュー曲『モニカ』の歌詞は、直接相手に訴えかけるような表現は皆無で、少し斜に構えたニヒルな青年の様子が描かれています。「アイドルのデビュー曲としては日常感覚がなさすぎる」としながらも「それが吉川が歌うと妙にキマる」と評しています。
50歳を超えての歌手活動。作詞作曲はもちろんステージ上ではギターも弾く。バック宙もする。シンバルキックもすると派手なアクションは健在。役者としても力をつけていて、こちらも各方面で高い評価を得ています。老化をポジティブな言葉で表す「ロマンス・グレー」の最たる具現者が吉川なのではないでしょうか?
ここまで挙げた名前を振り返ると、岡田有希子は故人であり、マッチやトシちゃんは事務所の影響力で生き残っている感は否めない。そう考えると、自然な形で自分らしく活躍している吉川に憧れる人が多いのも頷けます。そして遡ること30数年前に吉川の将来に大きな期待を寄せていた藤田さんの慧眼も実に鋭いものでしたね。
こうした時代の流れを感じる文献に出会えるのが古書をあさる魅力なんですよね。さて、恐らく今回が年内最後のブログ更新。ちょっと早いですが皆さんよいお年を!