猿一匹 酔って候

Live-up Works(リブアップ・ワークス)主宰、大西啓介のブログ。2012年からフリーライターとして活躍。企業のPR媒体から、ごみ、リサイクル問題、老人福祉などの分野をメインに取材・執筆活動を行う。現在は東京都豊洲市場に出入りして水産分野でも活動中。

広告に与えるべき議論の時間

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最近、“炎上”ブームというか、他人の行動やSNSなどの投稿内容にむやみやたらに噛みつく人が増えてきたと思います。新型コロナウイルス感染拡大のせいもあってか、とにかく心に余裕がないような気がします。

広告についても、その内容にクレームが入ると、企業側が広告の即時取り下げ→謝罪という一連の流れがパターン化してきました。

写真の品川駅のデジタルサイネージ広告もその一つでしょう。

「今日の仕事は、楽しみですか。」

確かに写真を一瞥するだけでは、他人行儀で冷たい印象を受けます。実はこれ、数秒ごとにディスプレイが切り替わる仕組みになっていて、前後のコピーやボディ文も含めて一つの広告として完成しているものなのです。ところがこの1枚の切り取りを見ただけで「誰もが仕事を楽しいと思っているわけじゃない」「辛くても頑張っている人の心情を逆撫でしている」といった意見が相次いだため、即座に掲載を打ち切り、広告主は謝罪に追い込まれたそうです。

これ以前にも、視聴者などからのクレームが原因で、掲載取り下げの憂き目にあった広告は数多く存在します。僕もかつては広告業界にいたからこそ思うのですが、とりあえず、しばらくは掲載を続けて世間の反応を見ることが大事だと思います。

さすがに、差別的な内容や特定の個人を攻撃するような表現はNGですが、クレームと同時に、何かしら肯定的な意見が聞こえてくる可能性だってあります。これだけSNSが発達した現在だからこそ、水面下の各所で広告の内容に関する議論がなされてもよいはずです。複数の意見が織り交わることで、広告もまた違った見え方ができますし、何より社会に対してメッセージを投げかけた企業(広告主)のプレゼンス向上につながるような気もします。一定期間を経て、改めて掲載を続けるにふさわしくないと判断した時点で掲載を取り下げればいいでしょう。

企業もマイナスイメージを持たれたくない気持ちはわかりますが、「企業からのメッセージ」として広告を出稿しているのだから、その内容に責任は持つべき。もしかしたら、後世に残る意味のある広告としてのポテンシャルを秘めているかもしれない。そんな名作が、右に倣えの事なかれ主義に押しつぶされ、即座に世から消えていくのは非常にもったいないことだと思います。