猿一匹 酔って候

Live-up Works(リブアップ・ワークス)主宰、大西啓介のブログ。2012年からフリーライターとして活躍。企業のPR媒体から、ごみ、リサイクル問題、老人福祉などの分野をメインに取材・執筆活動を行う。現在は東京都豊洲市場に出入りして水産分野でも活動中。

『非正規介護職員ヨボヨボ日記』を読んで

還暦を迎えた著者が初めて就いた「介護の仕事」で覚えた悲喜こもごもを綴ったノンフィクション。リストラなどで仕事を失い、同年代で介護の道を志した人も多いことかと思います。共感できたところ。反面、大きくギモンに思ったことなどがあったので感想文として記しておこうと思います。

就職前のミスマッチを回避する意味では読んでおきたい

著者は認知症グループホームに勤務していると思われるが、実際の入居者(認知症高齢者)とのやりとりがかなり具体的に描かれているため、「介護はこんな仕事」「認知症への対応方法」という予備知識を得るにはよい内容だと思います。介護職には興味あるけど、実際の仕事内容がよくわからず不安。という人は一度目を通しておくのもよいかもしれません。

守秘義務は大丈夫?

大きな疑問に思ったのは、内容が具体的ゆえ、入居者をはじめとする登場人物がヘタすると特定できてしまうのではないかという点。仮名を用いてはいるものの、その人の過去の経歴や、認知症の中核・周辺症状まで詳しく書いてあるケースもありました。また作中、スタッフ一同から嫌われている‟お局様”的現場リーダーが出てくるのですが、その人のことも糾弾しているため、職場での人間関係が崩れないかと妙な心配をしてしまいます。

どの仕事でも「人生経験」が大きな基盤になる

作者の真山氏は、これまでに広告代理店や建設業界など、さまざまな仕事を経験してきた方です。また小さいなりに会社を興したこともあります。それゆえ豊富な人生経験があり、人心掌握に長けているはず。本著の最後に「(自分は)介護での知識や経験は低いが、今までに得てきた人生経験はこの仕事でも生きるはず」と述べています。

正直、60歳でまったくの未経験分野に入って、子どもほど年齢の離れた人に頭を下げて仕事を教えてもらうことは、屈辱とも言えるでしょう。それでも自分の中での「積み重ね」があれば、どの仕事にも応用できると、ポジティブな気持ちでとらえていることは、同じような境遇で介護業界に入った人にとって大きなアドバイスとなるはずです。

軽度の認知症患者と向き合う場合、コミュニケーションスキルは大きな財産です。「経験」が自らを導き、成長させてくれる源泉となることを身をもって証明してくれているでしょう。

働く人の間でも「多様性」が認められるように

他の方が書いたレビューを見てみると、「職員自らが介護を見下している」「介護のマイナス面ばかり取り上げている」「当たり前の内容ばかりで共感できる点がない」と厳しいコメントも目立ちます。

残念ながら介護業界はプライドを持ってこの仕事に就いている人たちばかりではありません。真山氏のようになし崩しでこの世界に飛び込んだ人も大勢います。どの仕事においても同じですが、「職場」はさまざまなバックグラウンドを持った人たちの集まりで、各人の過去を理解することは不可能に近いはずです。それゆえ、お互い理解し意識のすり合わせを図っていくことも、健全な「職場」を作っていく上では重要なことだと思います。建前ではどこも「お客様第一」を掲げていますが、職場を作るのは働いているスタッフ一人ひとりなのですから。


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